二重否定の意味と使い方
一つの文に否定の語が二つ以上入る形。標準英語では打ち消し合うと説明されるが、歌詞や方言では否定をさらに強める形として定着している。どちらの読み方をすべきかは、その文を書いた人の英語で決まる。
どういう表現か
I don't need no help.には否定が二つ入っている。算数のように打ち消し合うなら「助けが要る」になるはずだが、この文が言っているのは「助けなんか要らない」である。
否定が二つ並んでいるのは、二回打ち消すためではない。一回の否定を、文じゅうに行き渡らせているからである。don'tで否定し、noでもう一度その否定を刻む。結果として、否定は弱まるどころか強まる。
「間違い」ではない
学校英語ではこの形を誤りとして習うことが多いが、歌詞や方言で出てくるこの形は、誤りではなく別の規則である。
英語には古くから、否定を文じゅうの語に一致させる仕組みがあった。チョーサーの時代には、否定語を重ねるほど否定が強くなるのが普通で、今の標準英語のほうがあとから整えられた側にあたる。
その規則は消えたのではなく、標準英語の外に残っている。
- アメリカ南部・アフリカ系アメリカ英語
- イギリスの各地の方言
- ブルース・カントリー・ヒップホップの歌詞
誤りとして片づけると、読者が実際に耳にする英語と食い違う。書き言葉の規範から外れる、という線引きだけが正しい。
どの語が組になるか
notやn'tと組んで否定を重ねるのは、決まった顔ぶれである。
| 組む語 | 例 |
|---|---|
| no | He don't have no money. |
| nothing | I didn't hear nothing. |
| nobody / no one | She won't tell nobody. |
| never | I ain't never seen that. |
| nowhere | They ain't going nowhere. |
any系(anything / anybody)に置き換えると、そのまま標準英語の文になる。読むときは頭の中でanyに直せばよいが、直した文はもう強調を持っていないことは意識しておく。
標準英語にも二重否定はある
まぎらわしいが、打ち消し合うほうの二重否定も実在する。否定語で否定語を打ち消して、控えめに肯定する言い方である。
It's not unusual.(珍しくない → まあよくある)I'm not unhappy.(不幸ではない → そこそこ満足している)
見分けるところは単純で、二つめの否定が接頭辞かどうかである。un-やin-が付いた語なら打ち消し合い、noやneverのような独立した否定語なら強めている。
訳すときに気をつけること
打ち消し合うほうだと読み違えると、意味が正反対になる。そこさえ外さなければ、あとは強さの問題になる。
強調が乗っているので、素直な否定より一段強く訳すとよい。
- 「〜ない」より「〜なんかない」
- 「何も言わなかった」より「何ひとつ言わなかった」
- 「行かない」より「行きゃしない」
くだけた文体であることも同時に伝わっているので、訳文まできれいに整えると、原文の荒さが落ちる。
自作の例文
この節の例文はすべて書き下ろし。既存の曲から引いたものではない。
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I don't need no help.
助けなんかいらない。
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She didn't say nothing.
あの人は何ひとつ言わなかった。
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We ain't going nowhere.
どこへも行きゃしない。
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