主語の省略の意味と使い方
文の先頭にある主語や助動詞が落ちて、途中から始まっているように見える形。話し言葉と歌詞ではごく普通に起きる。落ちたものは決まっているので、残った形から逆算すれば元の文に戻せる。
どういう表現か
英語の文は主語で始まるのが基本だが、話し言葉では先頭が落ちることがある。
Been waiting all night.… 先頭にI'veがあるSounds good to me.… 先頭にThatがある
落ちるのはいちばん弱く発音される部分で、情報としてはほとんど何も足していない語である。IやThatは、その場にいれば言わなくても分かる。分かるものが落ちるという、それだけの現象だと考えてよい。
何が落ちているか
落ち方には型があり、残った形から逆算できる。
| 残っている形 | 落ちているもの | 元の文 |
|---|---|---|
| 過去分詞で始まる | 主語 + have | Been there. → I've been there. |
| -ingで始まる | 主語 + be | Coming right up. → It's coming right up. |
| 動詞の三単現で始まる | 主語だけ | Looks fine. → It looks fine. |
| 主語 + -ingで疑問 | beだけ | You coming? → Are you coming? |
| 形容詞で始まる | 主語 + be | Good to see you. → It's good to see you. |
過去分詞で始まっていたらhaveが落ちている、というのがいちばん役に立つ。BeenやGoneで始まる行は、完了形だと思って読めばまず外れない。
命令文と見分ける
いちばん間違えやすいのがここで、原形で始まる文は両方ありうる。
Get out of here.… 命令(出ていけ)Got to go.… 省略(I've got to go.= もう行かなきゃ)
見分けるところは2つある。うしろに続く内容が相手への指示かと、その形が命令として成り立つかである。Gotは過去分詞なので、そもそも命令文にはならない。迷ったら、まず落ちている語を補ってみて、通るほうを取る。
疑問文でも落ちる
疑問文では、先頭の助動詞が落ちて平叙文と同じ語順になる。
You want some?(Do you want some?)She calling you back?(Is she calling you back?)
語順が変わらないので、疑問符と声の上がり方だけが手がかりになる。文字で読むときは疑問符を見落とさないこと。歌詞では疑問符が省かれることもあり、その場合は文脈で決めるしかない。
書き言葉との線引き
改まった文章では使わない。報告書やメールでこの形を使うと、書きかけの文を送ってしまったように見える。
例外は、メモやチャットのような短い私信である。Sounds good.やGot it.は、会話に近い速さで返すことが期待されている場でなら自然に読める。
歌詞に多いのは、音節を減らせるのと、独り言のような近さが出るためである。省略された文は、聞き手に向けて整えられていない。その整えなさ自体が、そのまま距離の近さになっている。
訳すときに気をつけること
日本語はもともと主語を言わない言語なので、省略されていること自体は訳文に出てこない。そのまま訳すと、ふつうの文と区別がつかなくなる。
原文が出しているのはくだけた速さなので、訳文のほうでは文体で受けるとよい。
- 「〜していた」より「〜してた」
- 「一緒に来ますか」より「一緒に来る?」
丁寧な文末にそろえてしまうと、省略が伝えていた近さが落ちる。
自作の例文
この節の例文はすべて書き下ろし。既存の曲から引いたものではない。
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Been waiting all night.
一晩じゅう待っていた。
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Sounds good to me.
それでいいと思う。
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You coming with us?
一緒に来る?
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