Super Bass / Nicki Minajの歌詞和訳と意味
デビュー盤『Pink Friday』のデラックス版に入り、5枚目のシングルとして切られた曲。本人によれば、じゃれ合いのような恋の話。ラップと歌が同じ人の中で切り替わるので、訳では口調をどこで変えるかが難所になる。
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公式のミュージックビデオ。曲そのものはこちらで。
| アーティスト | Nicki Minaj |
|---|---|
| 発表年 | 2010 |
| 収録アルバム | Pink Friday(デラックス版) |
ここが分かると聴こえ方が変わる
Top down, AC with the cooler system
屋根は開けて、冷房は効かせて
動詞が1つも無い行である。名詞句だけを並べて情景を出す書き方で、英語はこれができる。日本語は述語が無いと行が終わらないので、訳文は「開けて」「効かせて」と 動詞を2つ補っている。補うと、原文には無かった動作の主体が薄く立ち上がる。 Top downは幌を下ろした状態のことで、 どんな車に乗っているかを言わずに示している言い方でもある。
Got stacks on deck like he saving up
札束を切らさない、貯めてるみたいに
like he saving upは、be動詞が落ちている。 文法の誤りではなく、話者が使っている英語の変種の特徴で、それ自体が「どこの誰の言葉か」を示している。日本語にはこれに対応する仕組みが無い。語尾や一人称で人物像を出すことはできるが、 同じ情報を同じ場所では運べない。訳文はその印を落としていて、残るのは内容だけになっている。話し方が身分証のように働く行では、訳は必ずこの取りこぼしをする。
通常盤ではなくデラックス版に入っている曲である
デビュー盤『Pink Friday』(2010年)のデラックス版の収録曲。2011年4月5日に、アルバムの5枚目のシングルとしてアメリカのラジオへ送られた。作詞作曲は本人とEster Dean、Roahn Hylton、そしてプロデューサーのKane BeatzとJMIKE。Ester Deanは歌にも参加している。曲そのものの記録はWikipediaの項目にある。
入っている場所が、この曲の広がり方を説明している。通常盤ではなくデラックス版に足された曲で、しかもシングルとしては5枚目、つまりいちばん後ろである。それでいて、この盤からいちばん長く残った曲になった。
Billboard Hot 100で3位、イギリスで8位。オーストラリア・ベルギー・カナダ・ニュージーランド・スコットランドでもトップ10に入っている。
アメリカのダウンロードは2014年12月時点で500万を超え、2021年11月に1,000万ユニット相当のダイヤモンド認定を受けた。オーストラリアでは11×プラチナ、ノルウェーとイギリスで2×プラチナである。
Billboardが出した2010年代のHot 100通算チャートで94位。本人の曲でこの一覧に入っているのは、この1曲だけである。
ミュージックビデオは2011年3月にSanaa Hamriが監督した。濃い桃色の小道具を並べた画づくりで、本人が男たちをからかう場面で構成されている。
題名のbassは楽器の名前ではない
bassは低音のことである。楽器の名前としても使うが、この題名では音そのものを指している。
体に響く低音の感覚を、相手を前にしたときの高鳴りに重ねている。だから「スーパーベース」とカタカナで置くと、日本語の読者には楽器か機材の名前に見えてしまう。
かといって「重低音」と訳すと今度は機械の説明になる。この題名は、訳すと必ずどちらかへ寄る種類のものである。
同じ人の中で、歌う声とラップする声が切り替わる
この曲はポップラップの形をとっている。サビは歌い、詰めの部分ではラップになる。そしてそのどちらも同じ人が担当している。
英語では、この切り替えが声の出し方と速さで自然に伝わる。日本語に訳すと、文字だけになった瞬間にその差が消える。
訳文で差を出すなら、語尾と語彙の選び方でやるしかない。歌の部分をやわらかく、ラップの部分を速く短く。ただしやりすぎると別人が2人いるように読めるので、どこまで変えるかを決めておく必要がある。
じゃれ合いの温度は、訳文の敬体と語彙で簡単に壊れる
本人の説明によれば、この曲は気になる相手とのじゃれ合いのような恋の話である。訳すときにいちばん壊れやすいのが、この温度である。
日本語は、丁寧さの度合いを文の形そのものが背負っている。そのため訳文を整えようとすると、意図せず温度が下がる。
- 敬体で通すと、からかっている調子が消えて説明になる
- 常体で硬く書くと、じゃれ合いが宣言に変わる
- 砕けすぎた語を当てると、余裕のある感じが失われて幼く聞こえる
厄介なのは、この曲がのろけと自慢を同時にやっていることである。相手を持ち上げながら、持ち上げている自分の目の高さも見せている。訳文が下手に出ると自慢が消え、強く出るとのろけが消える。
手がかりになるのは、言い切らない語尾である。断定を少し外すと、余裕と冗談の色が残る。温度は語彙で作るより、文の閉じ方で作るほうが調整しやすい。
削るのではなく足すことになる行が、この曲にはある
ラップの部分は1行あたりの語数が多く、日本語は同じ内容を言うのに音数が増えるので、削る作業になるのが普通である。ところがこの曲には、逆に足さなければ行が終わらない箇所がある。
上で引いた1行目がそれにあたる。原文は名詞句だけを並べて情景を出していて、動詞が1つも無い。英語はこの置き方ができるが、日本語は述語が無いと行が閉じないので、訳文は動詞を2つ補っている。英語の側でこうして語が落ちる形は主語の省略にまとめてある。
つまりこの曲を訳すとき、同じ曲の中で削る行と足す行が混ざる。
- ラップの行は語数が多いので、削って音数に収める
- 名詞句を並べた行は、日本語として閉じるために述語を足す
厄介なのは、足すと原文に無かった動作の主体が薄く立ち上がることである。削るときに失われるのは情報だが、足すときに増えるのは原文が言っていなかったことなので、性質が違う。
だから足す側の行では、足す語をできるだけ意味の薄いものにするのが手になる。情景を並べているだけの行に強い動詞を当てると、そこだけ誰かの意志が働いているように読めてしまう。
訳が割れるのは、口調の切り替えとじゃれ合いの温度
- 題名の
bass。楽器か、音か、高鳴りか。カタカナで逃げるかどうかも含めて決める - 歌とラップの切り替え。上の節のとおり。語尾と語彙で差を作る
- じゃれ合いの温度。上の節のとおり、語彙より文の閉じ方で作る
- 削る行と足す行が混ざる。同じく上の節のとおり、足す語は意味の薄いものを選ぶ
語句解説
- bass(ベース)
- 低音のこと。楽器の名前でもあり、音そのものを指す言い方でもある。この題名の
bassは、体に響く低音の感覚を恋の高鳴りに重ねた使い方で、楽器の名前として訳すと意味が通らなくなる。 - pop rap(ポップラップ)
- ラップにポップスの旋律を混ぜた形。サビを歌い、詰めの部分でラップする作りをとることが多い。
- デラックス版
- 通常盤に曲を足して出し直した盤。この曲は通常盤ではなくデラックス版に入っている。
アルバムの曲と言えるが、最初から入っていた曲ではない。 - ダイヤモンド認定
- アメリカで1,000万ユニットに相当する売上に与えられる認定。この曲は2021年11月に受けている。
よくある質問
Super Bassはどんな曲ですか?
デビュー盤『Pink Friday』のデラックス版に入っている曲で、2011年4月5日にアルバムの5枚目のシングルとしてアメリカのラジオへ送られました。本人とEster Dean、Roahn Hylton、プロデューサーのKane BeatzとJMIKEの共作です。
どんな内容の曲ですか?
本人の説明によれば、自分と気になる相手とのじゃれ合いのような恋の話です。ポップラップの形をとっていて、電子音の要素が入っています。
チャートではどうでしたか?
Billboard Hot 100で3位、イギリスのシングルチャートで8位です。オーストラリア・ベルギー・カナダ・ニュージーランド・スコットランドでもトップ10に入りました。
どのくらい売れましたか?
2014年12月時点でアメリカのダウンロードが500万を超え、2021年11月に1,000万ユニット相当のダイヤモンド認定を受けています。Billboardの2010年代のHot 100通算チャートでは94位で、本人の曲でこの一覧に入っているのはこの1曲だけです。