All We Know / The Chainsmokersの歌詞和訳と意味

2016年9月29日に出たThe Chainsmokersの曲。Andrew TaggartとPhoebe Ryanが歌っている。題名のall we knowは「知っていることの全部」とも「これしか知らない」とも取れる形で、どちらに寄せるかで曲の色が変わる。

この曲を聴く

歌詞の全文と全訳は、動画のほうで曲に合わせて流れる。通して味わうならこちらから。

アーティストThe Chainsmokers
発表年2016

ここが分かると聴こえ方が変わる

I'll ride my bike up to the road

自転車を持ってくる

All We Know / The Chainsmokers / 作詞: Andrew Taggart

原文の動詞はrideで、乗って走っている絵がそのまま出ている。訳文の動詞は「持ってくる」で、乗っていない。さらにup to the road(通りまで)が訳文から消えているので、 どこへ向かうのかも訳の側では言っていない。短くしたぶん、行の情報は減っている。歌の訳では 音に乗る長さが先に決まっていて、そこへ収まらない語から落ちていく。ここで残ったのは「自転車」という小道具だけで、その小道具が次の行の移動につながっていく、という組み立てになっている。直訳との差を見るには使いやすい行で、 何を落としたかを数えると、訳者が何を主役だと思ったかが見える

Down the streets right through the city

通りを抜けたら

All We Know / The Chainsmokers / 作詞: Andrew Taggart

原文には動詞が無い。Downthroughという前置詞だけで方向を示していて、前の行の動きがそのまま続いている形になっている。英語はこの置き方ができるが、日本語は述語が無いと行が終わらない。そこで訳文は「抜ける」という動詞を足している。足したのは動詞だけではない。文末の「たら」で条件にしているので、この行は次の行への前振りという役を新しく持つ。原文が景色を並べているところを、訳文は話の運びに変えている。前置詞句をどう畳むかは英日の訳で必ず出てくる問題で、この行は「動詞を補って接続に変える」という定石の形になっている。

作る側の人間が、そのまま歌っている曲である

2016年9月29日、Disruptor RecordsとColumbia Recordsから出た。The ChainsmokersはAlex PallとDrew Taggartの2人組で、この曲ではTaggart自身が歌っている。そこにアメリカの歌手Phoebe Ryanが加わる形になっている。曲そのものの記録はWikipediaの項目にある。

この編成が、この時期のEDMの変わり方をそのまま示している。

もともとDJの曲は、制作する人と歌う人が別であるのが普通だった。歌手を招いて歌わせ、名義は制作側が持つ。ところが2016年前後から、制作側の人間が自分で歌う形が増える。この曲はその流れの中にある。

同じ2016年、この2人組はDon’t Let Me Downでアメリカのトップ5に初めて入り、Closerで初のBillboard Hot 100 1位を取っている。この曲はその間に置かれている。

2016年のCloserHalseyを迎えた曲で、翌年のアルバム『Memories…Do Not Open』はBillboard 200で1位になっている。

題名のall we knowは、意味が正反対の2通りに読める

all we knowは、素直に置けば「私たちが知っていることの全部」になる。

ところが英語のこの形は、限定の側にも傾くall I have is ten dollars.が「10ドルしか持っていない」になるのと同じで、allは多さではなく、それ以外に無いことを言う場合がある。

つまりall we knowは、

  • 「知っていることの全部」=二人が積み上げてきたもの
  • 「これしか知らない」=ほかのやり方を知らない

のどちらにも読める。前者は豊かさの話で、後者は狭さの話である。

日本語ではこの両方を同時に持つ言い方がほとんど無い。「私たちが知っているすべて」と書けば前者に寄り、「これしか知らない」と書けば後者に確定する。

訳す前に、この曲をどちらの話として読むかを決めることになる。決めずに書き始めると、行ごとに揺れる。

同じ言葉を返す曲では、訳文を毎回そろえるかどうかが分かれ目になる

踊るための音楽は、短い音型を繰り返して土台を作る。その上に乗る歌詞も、同じ言葉が何度か返ってくる形になりやすい。歌詞カードの上では同じ行が並んでいるだけだが、曲の中では、返すたびに置かれている位置が変わっている。1回目は説明でも、2回目は念押しに、最後は諦めに聞こえる、ということが起きる。

日本語に移すときに取れる手は2つある。

  • 毎回まったく同じ訳文を置く。繰り返しであることが目に見える。ただし単調に読める
  • 少しずつ変える。読み物としては自然になる。ただし、同じ言葉が返っている事実が消える

どちらが正しいということはない。決め手になるのは、その繰り返しが曲の意味を作っているかどうかである。同じ言葉しか言えなくなっている、という状態そのものを歌っている曲なら、訳文を変えた時点で中身が抜ける。一方で、単に音として気持ちのよい返しなら、変えても失うものは少ない。

この曲の題名が繰り返しの中心にあることを思うと、前者に近い。少なくとも、題名にあたる語だけは訳語を固定しておくのが安全である。

声が交代する曲では、日本語の語尾が誰の言葉かを示してしまう

この曲はAndrew TaggartとPhoebe Ryanの2人が歌っている。英語の歌詞は、誰が歌っているかを言葉の側では示さない。語形が話し手の性別や立場に応じて変わらないので、歌詞を読むだけでは話者が入れ替わったかどうかが分からない行が出る。

日本語にすると、この中立さが保てない。語尾を決めた瞬間に、話し手の距離感や調子が出るからである。男女で語尾を書き分ければ誰の言葉かは分かりやすくなるが、原文が持っていなかった役割分担を、訳文の側で作ったことになる

かといって全部を同じ語尾でそろえると、今度は交代していること自体が読み取れなくなり、1人の長い独白のように読める。

ひとつの手は、語尾ではなく行の切り方のほうで処理することである。話者が変わるところで改行や間を作り、語尾そのものは中立に保つ。訳文が声の情報を持てないぶん、並べ方のほうで代わりを作るという考え方になる。

判断の分かれ目は、歌っているのが何人かではなく、原文の側に印があるかどうかにある。語の選び方や行の形が交代を示しているなら、訳文もそれを受けてよい。何も示していないこの曲のような場合に語尾を動かすと、訳文が原文を超えて人物を作り分けることになる。印を受けた側の例はWhen I’m GoneThe Greatestにある。

訳が割れるのは、allの向きと繰り返しの扱い

  • allをどちらに取るか。上の節のとおり。曲全体の読みを先に決める
  • 繰り返し。上の節のとおり、毎回そろえるか変えるかを先に決める
  • 2人で歌っていること。同じく上の節のとおり、語尾で書き分けると原文に無い役割分担が生まれる
  • weをどう置くか。日本語の「私たち」は書くと重い。省くと自然になるが、曲の題名にある語が本文から消える

語句解説

all we know
直訳すると「私たちが知っていることの全部」。ただし英語では、これしか知らないという限定の意味にも傾く。前者は豊かさ、後者は狭さの話になり、向きが逆になる。どちらに取るかは文脈で決まるので、訳す前に曲全体の読みを決めておく必要がある。
DJデュオ
2人組で制作と演奏をする形。The Chainsmokersの場合、Alex PallとDrew Taggartの2人組で、Taggartは歌も歌う。作る人歌う人が同じ組の中にいる。
featured vocals(客演の歌唱)
主となる名義とは別に、歌の部分を担当する人。この曲ではPhoebe Ryanが入っている。表記に名前が出る点が、クレジットに出ない形(AviciiのThe Nights)とは違う。
EDM
electronic dance musicの略で、電子音を主体にした踊るための音楽をまとめて指す言い方。短い繰り返しのリズムを土台にする作りが基本になる。
繰り返し(リフレイン)
同じ言葉を曲の中で何度も返すこと。歌詞カードの上では同じ行だが、曲の中では返すたびに意味の重さが変わる。訳文をそろえるか変えるかは、その繰り返しが曲の中身を作っているかどうかで決める。
we
英語の一人称複数。日常の会話で頻繁に出る語で、日本語の「私たち」ほど改まった感じがしない。題名に入っているので、訳文で省くかどうかの判断が記事全体に効いてくる。

よくある質問

All We Knowはどんな曲ですか?

2016年9月29日に、Disruptor RecordsとColumbia Recordsから出たThe Chainsmokersの曲です。歌はメンバーのAndrew Taggartと、アメリカの歌手Phoebe Ryanが担当しています。

誰が歌っていますか?

The Chainsmokersの片方であるAndrew Taggartと、Phoebe Ryanの2人です。デュオ自身のメンバーが歌っている点が、外部の歌手だけを立てる形とは違います。

題名はどういう意味ですか?

「私たちが知っていることの全部」とも「これしか知らない」とも取れます。前者なら豊かさの話、後者なら狭さの話になり、意味の向きが逆になります。どちらに寄せるかが、この曲を訳すときの最初の判断になります。

ほかの曲